環境問題へのアクションを若者と共創する。積水ハウスが実践、「対話型」環境コミュニケーション 環境問題へのアクションを若者と共創する。積水ハウスが実践、「対話型」環境コミュニケーション

本記事は、MVMNT運営元 Loftworkの公式ウェブサイトより転載しています。
元の記事URL:https://loftwork.com/jp/project/sekisuihouse-ethicalclassmate

Outline

住まいを通じて豊かなライフスタイルを提供する積水ハウス株式会社は、これまでのコミュニケーション施策の中で接点を持つ機会のなかったミレニアル世代・Z世代に向けて、ブランドへの共感を生むためのコミュニケーション機会をいかに創出できるかを模索していました。
同社はロフトワークをパートナーとして、「エシカル」をテーマに、従来とは異なるスタイルの環境コミュニケーションプロジェクト「エシカル暮らすメイト」を実施。ターゲット層と同世代のクリエイターが生活の中でエコ・サステナブルにつながるライフハック・アイデアをプロトタイプし、さまざまな有識者との対話を通して「エシカルな暮らし」の可能性を探る機会を創出しました。そのプロセスを特設Webサイト、YouTube、Instagramを通じてオープンに発信しました。

執筆:吉澤 瑠美
編集:岩崎 諒子(loftwork.com編集部)

CLIENT積水ハウス株式会社
WEBhttps://www.sekisuihouse.co.jp/ethicalclassmate/
MEMBERプロジェクトマネージメント:原 亮介、上ノ薗 正人
プロデュース:新澤 梨緒、伊藤 望
クリエイティブディレクション:金岡 大輝、武田 真梨子
映像ディレクション:黒沼 雄太
イベント配信ディレクション:松永 篤
SNS運用ディレクション:飯澤 絹子
Web テクニカルディレクション:村田 真純
広報サポート:鈴木 真理子
7Days Challenge 制作協力SAMPO inc.
TSUMUGI
NEUT Magazine

Challenge

ミレニアル世代・Z世代と向き合い、同じ目線で対話する環境コミュニケーション

国連において採択されたSDGs(持続可能な開発目標)がターゲットとする2030年まで10年を切り、国内企業からも社会・環境への取り組みに関する情報を発信する機会が増えています。積水ハウスは、環境を軸に据えた経営を行う「環境未来計画」を1999年に発表。施工現場の廃棄物を100%リサイクル「資源循環センター」を運営するなど、業界内でもいち早くサステナブル社会の実現に向けたアクションを起こしてきました。しかし、これらの取り組みについて社会への発信、特に若年層への発信・認知がいまだ十分にできていないことが課題でした。

こうした背景から、積水ハウスはエコやサステナブルへの関心が社会的に高まっている現状を契機として、若者世代との接点となる環境コミュニケーションを展開すべく、ロフトワークに協力を依頼しました。

プロジェクトに参加したクリエイターユニット「TSUMUGI」は、まさにミレニアル世代。

ミレニアル世代、Z世代と呼ばれる20〜30代の若者はデジタルネイティブ世代とも重なり、個人がさまざまな社会課題と向き合わなければならない時代を生き抜いてきました。環境問題もまた、彼らにとって身近なトピックの一つであり、情報の波の中で一人ひとりが何を信じ、どのような行動を取るかを日々問われています。

プロジェクトチームは、エコを自分ごととして捉えてきた世代に対して、同じ目線から接点と対話を持つことに重点を置いた環境コミュニケーションを試行。「エシカル」をテーマに据えた、プロトタイピングと対話型イベントを通じたメッセージ発信を提案しました。

「エシカル(ethical)」は「倫理的な、道徳上の」という意味を持つ言葉で、近年は特に企業活動や消費活動の文脈において、「環境や社会への配慮がなされている」という意味合いで知られるようになりました。日本でもファッション業界や食品業界を中心に考え方が広まっており、若い世代でも認知や関心が高まっています。

プロジェクトチームは「エシカル」という言葉の持つ、正しくあることを一人ひとりに問いかけるスタンスを重要視。企業「が」発信するのではなく、企業「と」共創する形でメッセージを発信することを目指しました。

Outputs

エシカルなライフハックアイデアを実験する「7Days Challenge」

3組の「コレクティブな」クリエイティブユニットがモデルハウスをハック

次世代の暮らしを考えるクリエイティブユニットとして、SAMPO inc.TSUMUGINEUT Magazineの3組がプロジェクトに参加。それぞれ空間づくり、食生活、ライフスタイルの観点から、7日間をかけて積水ハウスの提供するモデルハウスをハックするという公開実験を行いました。

3組の共通点は、フォロワーやコミュニティを持つコレクティブなクリエイターであること。このプロジェクトがその場限りで終わることなく、彼らのアクションをきっかけに対話や反応の輪が波及し、ムーブメントの火種につながることを意図してアサインしました。

クリエイターによるライフハック・アイデア(一例)

SAMPO inc.: リフォーム現場から出た廃棄物を修繕、アップサイクルして照明と電源スイッチに。

TSUMUGI: 褪せたウェアや布を、玉ねぎの皮とアボカドの皮で染め直し、色鮮やかに蘇らせた。

NEUT Magazine: 衣類のアンチエイジングを可能にするナチュラル洗濯用洗剤でTシャツを正しく美しく洗濯。

2つのトークイベント

モデルハウスをハックする前と後に、各界の有識者を交えたトークイベントを開催し、YouTubeで配信しました。司会はエシカルファッションプランナーの鎌田安里紗氏。パネリストとして文化人類学者の辻信一氏、コンテクストデザイナーの渡邉康太郎氏、文筆家の佐久間裕美子氏が登壇しました。

それぞれ異なる分野、異なる世代から視点を持ち寄ったトークは、オンラインの視聴者の視点を代弁する一方で、複眼的な視点から「エシカルなライフスタイルとは何か」や「エシカルであるとはどういうことか」を考え、新たな発見を得られるまたとない機会を提供するものとなりました。

YouTube Live は約3,000人が視聴。また、1週間のインターバルを置いて、同じメンバー同士でハック前とハック後を観察しながら対話できたことで、クリエイターと有識者、積水ハウスの三者の関係性の醸成にもつながり、対話の密度を高める結果となりました。

7Days Challenge #DAY0 KICKOFF

“DAY 0”では、エシカルなライフスタイルをデザインするうえでのヒントやメッセージを提示。 イベントの構成は、視聴者が学びとインスピレーションを受けるだけでなく、多様な有識者とクリエイティブユニットとの対話を重視。また、資源循環センターの動画を上映し、積水ハウスが環境活動を精力的に実践してきているファクトと想いを発信しました。

7Days Challenge #LAST DAY OUTPUT

7Days Challengeでの実践を気づきとともに3組のクリエイティブユニットの視点でプレゼンテーション。有識者がクリエイティブユニットの成果だけでなく、試行錯誤に対しても、フィードバックしました。

コミュニケーションデザイン

キービジュアル

レトロなタッチで繊細な感情を描くイラストレーターのmame(まめ)さんによるキービジュアル。

キャンペーン特設Webサイト

エシカル暮らすメイト プロジェクトWebサイト|積水ハウス株式会社

プロジェクト公式Instagram

7Days Challenge から生まれたエシカルなDIYアイデアを発信。フォロワーとの双方向コミュニケーションも行った。

Story

企業、クリエイター、有識者の「対話」を深める

プロジェクトの推進力を握るカギとなったのは、対話の設計です。時代の変化とともに縁遠くなってしまった若者と住宅産業との距離を詰めるためのプロジェクト。初期のチームビルディングにおいて重要なポイントだったのは、いかに積水ハウスとZ世代・ミレニアル世代のクリエイターとの間の距離を近づけ、互いにフラットな関係を醸成していくかでした。

そこで、ロフトワークが初めに取り組んだのは、このプロジェクトに集まったメンバーの思想やキャラクターを互いに共有する機会を設けることでした。

積水ハウスは、事前インプットの一環としてプロジェクトメンバーを「資源循環センター」に招待。施工現場から出た廃棄物を細かく分別し、100%リサイクルするという同社の取り組みを間近で見ることで、クリエイター陣は積水ハウスがこのプロジェクトに込める思いを体感するとともに、7Days Challengeへのインスピレーションを得ました。​​

積水ハウス 資源循環センター見学映像。イベント内で上映した。

また、7Days Challengeの事前打ち合わせの機会を生かして、プロジェクトチームはクリエイターの拠点を訪問。実務的な内容の打ち合わせに留まらず、空間を通じてクリエイターの表現や思想に触れました。

事前準備の段階でアクティビティや雑談の余地を取り入れたことで、発注者と受託者、ホストとゲストという距離感は徐々に縮まり、一人ひとりが「これは自分のプロジェクトである」という実感を持つようになっていきました。

完璧でなくても取り組むことが大事、「エシカル」を実践する公開プロトタイピング「7Days Challenge」

「エコ」や「サステナブル」といったキーワードは、私たちの暮らしに根付く社会課題として広く認知されるようになった反面、ある種の「正しさ」や「行儀良さ」を求める風潮が、生活者にストレスを与えうることもまた事実です。

そこで本プロジェクトの方針として、誰でも参加できるもの、説教ではなく見ていて楽しいものを提供することと打ち出しました。受け手に「エコ」や「サステナブル」の「あるべき姿」を押し付けるのではなく、クリエイターが自由な発想でエシカルなライフスタイルをプロトタイピングする「実験」の風景を公開し、それを起点にざっくばらんに対話する機会を作りました。

プロジェクトチームはクリエイターへのお題として、「視聴者にも真似できるアイデア」をリクエスト。賃貸住宅の利用が多い都市生活者を想定した、「壁に傷をつけないDIY」や、「環境負荷を減らしながら料理をする工夫」「メタエシカルを体感できる室内装飾」など、生活者が実践できそうなものから、クリエイターらしい自由な発想が現れたものまで、幅広いアイデアが生まれました。

中には、実践してみたものの予想外にうまくいかず、「現実的でない」と結論づけたアイデアも。TSUMUGIのメンバーは洗剤を使わずに食器やキッチンツールを洗う工夫として、アクリルたわしを手作りしました。しかし、後からアクリルたわしからマイクロプラスチックが排出されしまうという事実を知り、「このやり方はエコではない」という結論に至ったのです。今回、自らの手で実験・DIYすることのリアリティとして、あえてその失敗も隠さずに公開しました。

積水ハウスがこれまで、資源循環センターの取り組みの発信を積極的に行ってこなかった理由の一つに、担当者の間の「まだ、自社の取り組みは完璧ではない」という思いがありました。エシカルな取り組みは完璧や正解を目指すのではなく、何度もチャレンジし、取り組み続ける姿勢が大切。本プロジェクトのキーメッセージを、図らずも一つの失敗エピソードが体現することとなりました。

“このプロジェクトに参加するまで「エシカル」という言葉を知らなかった。楽しいしクールだと思っているものを選んでいただけのこと。
社会的に考えるべきことや現実との葛藤はあるが、自分たちにとって心地良い、快いものを直感的に選び取っていくことがエシカルに通じていると信じたい。
「自給自足」は本来当たり前のシステムだが、社会においては生産者と消費者に分けられてしまっている。紋切り型に分断するのではなく、部分的にも自給自足を取り入れられる構造を大企業が提案していくと良いのではないか。”
—SAMPO Inc. 塩浦一彗

“普段大手メーカーの製品を買いがちだが、スモールビジネスの製品に切り替えても十分生活できることを実感した。今回はファッションブランドを紹介しなかったが、エシカルな服もたくさん出ている。
7Days Challengeによって、時代がエシカルにシフトしつつあることを改めて感じた。””
—NEUT Magazine 平山 潤

”このプロジェクトを通じて、「エシカルは一人で実践するものではない、みんなで作っていくものだ」と学んだ。アイデアを上に上げ、チームで対話を重ね、代替案をあれこれ考えながら実践する。その曖昧さがエシカルの醍醐味。”
ーTSUMUGI 塚本 紗代子

”「消費」という言葉の捉え方が変わってきている。スモールビジネスに対しては消費と同時に「参加」もしているように感じられる。従来の消費者という意識を脱却すれば、時間や金銭に対する見方も変わり、新たな意味を持ち始めるのではないか。”
ー辻信一(文化人類学者)

“実際に手を動かした結果「これじゃないかも」と参加クリエイター
本人が反省のコメントをした場面があったが、これは一見失敗のようで、むしろ共に考えるきっかけを生んだ。結果よりもプロセスの中に真実があったのかもしれない。
Instagram で各チームの制作プロセスを追いかけることは、プロセス、または「途中」を楽しむことだった。完成されたものからは、ときに参加しづらさを感じることもある。途中だから、中途半端だからこそ誰でも参加できるし、参加したいと思えることもある。企業活動でも社会運動でも、「途中」の視点はさらに大事になると思う。”
ー康太郎(Takram コンテクストデザイナー/慶應義塾大学SFC特別招聘教授)

“脱・大量生産が叫ばれる中、大企業はどういうポジションに立つべきかというのは経済全体の課題。アメリカでも小さなブランドをキュレートする動きが活発化している。積水ハウスがインディペンデントなクリエイターを応援する今回のイベントも然り、大企業が持つプラットフォームとスモールビジネスが協業していく未来が広がると良いのではないか。”
ー佐久間 裕美子(文筆家)

”ディスカッションの中で「分からなさに耐える」「途中を楽しむ」という発言があった。分かりきることはないのだ、ということを自覚し、身体を使って実験しながら暫定解を更新していくことがエシカルな暮らしを送る上で重要だと思う。”
ー鎌田 安里紗(エシカルファッションプランナー/一般社団法人 unisteps共同代表)

MAKEANEWMVMNTWITHUS