アーティスト・クリエイターと未知なるムーヴメント(新たな伝説)を生み出す「MVMNT」ユニットと「Senspace」のコラボレーションイベントが、FabCafe Tokyoにて1月13日に開催されました。MVMNTでは、アーティストの問いと好奇心を起点としたR&Dプロジェクト「オルタナティブコードシリーズ」を推進しており、本イベントでは、プロジェクトの第1弾としてリリースしたソーシャルインフォデミックゲーム「SNEEZE」の開発者であるアーティスト・ハッカーの石原航さんをお招きし、参加者の方々に作品の世界観を感じていただくトークセッションとワークショップを実施しました。
Web3技術を活用して新たな価値や体験、エンターテイメントを創造する「Senspace」とのコラボレーションによって実現したワークショップでは、今回の機会に開発されたアートゲーム「SNEEZE MAKER」を参加者のみなさんに体験いただきました。イベント後半では、MVMNTメンバーと石原さん、Senspaceのスターン廉さんによるトークセッションを実施し、アートゲームの背景にあるWeb3の考え方や、ブロックチェーンの今後について語り合いました。本記事では、当日のトークセッションとワークショップの様子をお伝えします。
つながりを可視化する存在としてウイルスを捉え直す
まずはイベントのイントロダクションとして、MVMNTの活動の紹介と、R&Dプロジェクトとしてスタートした「オルタナティブコードシリーズ」について、Creative Executive/シニアディレクターの山田麗音が解説しました。
山田 麗音(株式会社ロフトワーク, Creative Executive/シニアディレクター)
1985年生まれ。京都造形芸術大学情報デザイン学科卒業。コンセプチュアルデザインを軸に、グラフィック/エディトリアル/展覧会のキュレーションなどを手掛けるフリーランスとして活動後、2016年ロフトワークに入社。「NEWVIEW」「SHIBUYA QWS」「ひろしま公式観光サイト『Dive! Hiroshima』」などデジタル×フィジカルを跨ぐ大型プロジェクトのクリエイティブディレクションを多数担当。XRのグローバルコミュニティ育成から共創施設立ち上げまで、幅広いジャンルでユニークな世界観と新しいユーザー体験を生み出す。モットーは「クリエイターとともに前人未到の合流地点を目指す」。2022年4月よりCreative Executiveに就任し、ロフトワークのクリエイティブの向上と発信をミッションに活動中。
山田
「2022年の12月に立ち上がったMVMNTは、「20XX年の伝説を創造する」をミッションに、エモーショナルな社会と文化の創造を目指すチームです。アートドリヴンなプロトタイピングを通して、既成概念に囚われないエクストリームな価値観を提示し、関わる人たちのライフストーリーに刻み込まれるような新しい体験をどんどんと生み出していきたいと思っています。「オルタナティブコードシリーズ」は、そういった僕らのアプローチを体現するR&Dプロジェクトとして昨年スタートしたプロジェクトで、アーティストとの共創を通じて、新しいルールや行動様式の創造を目指しています」
次に、アーティスト・ハッカーの石原航さんから、昨年リリースしたソーシャルインフォデミックゲーム「SNEEZE」の解説が続きます。石原さんは、ハッキングや情報改ざんといったネガティブに捉えられている行為を、ポジティブに解釈し直した創造活動を展開しており、「SNEEZE」の開発においても、ウイルスというネガティブな存在への向き合い方を問い直す、自身のスタンスが反映されています。
石原 航(アーティスト / ハッカー)
慶應義塾大学総合政策学部卒業、同学政策・メディア研究科博士課程を単位取得満期退学。 「ありえるかもしれないインターネット」をテーマに様々な作品、システムを制作・開発しながら新しいアバター観やデジタルコミュニティの可能性を思索・研究中。 総務省認定異能β(総務省公認のへんなひと)保持者。Ars Electronica 2019 Future Innovatorに選出。公益財団法人クマ財団奨学クリエイター4〜5期生採択。 主な受賞歴にWIRED Creative Hack Award 2021 準グランプリ、同賞 2018 特別賞、Campus Genius Contest 2019 審査員特別賞など。
https://kooh.me/
石原
「ここ数年間、コロナウイルスによって世の中の分断が深まったと言われていますが、もしウイルスをポジティブに捉えられるとしたらどのような創造ができるだろうと、MVMNTチームと一緒に考えながら生まれたのが『SNEEZE』という作品です。
たとえば、コロナウイルスという共通の敵が現れたことで、世界がひとつの問題に向き合い、僕らの結びつきを強めることになったかもしれない。ある意味、ウイルスは人間のつながりを可視化させる性質があるのではないかと考え、SNEEZEはSNS上で感染が広がる電脳ウイルスとして開発しています」
続いて今回イベントオリジナルのアートゲームを開発いただいた「Senspace」のスターン廉さんが、Web3技術を主軸とする同社の活動について解説しました。Senspaceでは、ブロックチェーンやDAO(分散型自律組織)などの技術をより身近に感じられるコンテンツ制作を展開しています。
スターン 廉(Senspace代表取締役兼社長)
1991年、ニューヨーク生まれ。Senspace代表取締役兼社長。ハミルトン・カレッジ(NY)社会学部卒業。2019年、ベンチャーキャピタル「SIP Global Partners」のプリンシパルとして、ニューメディアへの投資に従事。2021年、Web3技術をベースとしたコンテンツ・カンパニー「Senspace」を創業。従来とは一線を画したアプローチでブロックチェーン等の最新技術を活用し、キャラクターコレクティブの運営や体験型コンテンツを展開。また、音楽への情熱からヒップホップレーベル「Frank Renaissance」を創立し、日米アーティストとの協業や、カーネギーホールの音楽教育プログラムをサポート。
廉
「Senspaceは、次世代のエンターテイメントを創造するWeb3コンテンツカンパニーです。僕らはWeb3を人と人とのつながりを深めるものとして捉え、ブロックチェーン技術を活用した技術支援やコミュニティ構築支援、さらには驚きやワクワクを提供する活動を展開しています。
たとえば、いま画面に移っているこの可愛いキャラクターは、仮想空間上のSenspaceのチームメンバーで、「ソウルバンドトークン」という技術を使ってアバターが発行されています。この技術を使えば、転売できないアバターをつくることができるため、実世界でのつながりと同様に、仮想空間においてもアイデンティティを実感できるんです。このように僕らは、フィジカルとデジタル、ファンタジーとリアルを行ったり来たりしながら、新たな価値の創造に取り組んでいます」
みんなでマスタースニーズを完成させよう!
参加型アートゲーム「SNEEZE MAKER」
それぞれのプロジェクト紹介のあとは、新年スペシャルワークショップがスタートです。ワークショップのモデレーターは、「研究員」に扮したSenspaceのキャスパーさん。まずは今回のアートゲーム「SNEEZE MAKER」のストーリーが、アニメーションとともに紹介されます。
ストーリー:ココは、世界のどこかにある摩訶不思議な
小惑星「センスペース」のファブタウン。
この惑星で最も笑顔の絶えないピースな町を支えるのが、特別な力を持ったウイルス、その名も「SNEE(スニー)」。
しかし、最近ファブタウンからSNEEが減少し、
町のスマイル値が0%に……。
スマイル値を回復させるために、属性と効果が与えられた完全体「MASTER SNEEZ(マスタースニーズ)」を完成させて、町のみんなに“幸せのウイルス”に感染してもらおう!
参加者それぞれがスマートフォンで「SNEEZE MAKER」にログインしてからゲームはスタート。まずは「バイヨウタイム」として、3、4人ずつ分かれたグループにて、スニーたちを組み合わせたオリジナルの「スニーズ」を完成させます。
完成したスニーズの属性を選択し、名前を付けたらプレゼンタイムです。形、属性、名前について、グループの代表者1名が解説していきます。すべてのプレゼンが終了したら、参加者がそれぞれのスマートフォンで人気投票を実施する「イイネタイム」にて、上位3位のスニーズを選出。人気のスニーズをつくったグループのもとに、他のグループが集合します。
集合した3グループにて、2度目の「バイヨウタイム」がスタート。スニーズたちをさらに組み合わせて、属性と名前を決定し、グループの代表者はふたたびプレゼンを実施します。
ワークショップもいよいよ大詰め。すべてのスニーズを結合させた「マスタースニーズ」を、参加者一同で組み立てていきます。はじめはばらばらだったスニーが、ユニークな形の大きなマスタースニーズとして完成しました。
ブロックチェーンが「天才」の個人性を解体する
「SNEEZE MAKER」終了後は、石原さん、廉さんに加え、MVMNTの山田麗音と瀬賀未久によるトークセッションを実施。参加者のみなさんと盛り上がったアートゲームに表現されたWeb3技術の解説と、ブロックチェーンの広がりによって期待される新しい行動規範の可能性について、登壇者たちが語り合いました。
瀬賀
今回のワークショップでWeb3やDAOの仕組みが、どのように応用されているのかをお聞きしたいです。
廉
参加された方はお気づきだと思いますが、ワークショップの中では一切NFTや仮想通貨、ブロックチェーンといった言葉を使っていないんです。今回の企画は、ブロックチェーンのような複雑な技術に、気軽に触れられる体験をつくることが目標でした。ワークショップの冒頭、参加者の方々にはスマホからログインいただいて自分のスニーをゲットしてもらいましたが、実はその時点で投票権のNFTを手に入れたことになっていたんです。そういった言葉を知らなくても体験できることが重要で、Web3において起こっていることをあえてフィジカルの体験として表現しています。
瀬賀
ワークショップを通してみんなでつくり上げる過程も、クリエイティブでよかったですよね。一般的に、最終的な作品のアウトプットでは、ひとりの作者の名前が世に出やすいですが、みんなでひとつ作品をつくるというのは、とても今っぽい作り方だなと思いました。
廉
最後のマスタースニーズには、それまでにつくったすべてのスニーズが含まれています。これは、過去の記録がすべてデータとして保管されるブロックチェーンの仕組みと同じです。コラボレーションとつながりによって生まれた最終的な作品の中に、過去のアイデアがすべて記録されていることを表現しているんです。
石原
これまでのクリエイションでは、才能というのは個人に宿っているという考えが強かったと思うんですが、もともと「Genius(天才)」の語源は、ラテン語の「ゲニウス」で、かつてそれは個人に宿るものではなく、街や環境、風習の中に宿るものとして考えられていました。なので、昔の人たちは「自分に才能がある」という感覚は今ほどなかったらしいんですよ。どれだけすごいものをつくったとしても、それは自分が育った街のおかげだと考える、謙虚な天才観だったんです。
そこから徐々に個人性が強くなり、現在の天才観に落ち着いたんだと思うんですが、今回のマスタースニーズは、誰か一人によってつくられたものではない、ゲニウス的な天才観を感じました。
ブロックチェーンの「物語」が新しい信用を生む
瀬賀
最初にキャスパーさんがストーリーを説明するのがとても重要だったのかなと思います。ファブタウンで起きている事件をみんなで解決していこう、という設定があるからこそ、みんなが共感して取り組むことができたのかなと。
廉
参加型の物語をつくりたいと思ってこの企画を考えたのですが、僕たちがつくったのはあくまで「設定」であり、同じゴールに向かっていくことで、みなさんが物語を生んでいく過程がおもしろかったなと思います。
また、今回のワークショップは、ブロックチェーンの物語をみんなで表現する企画になったと思います。僕はブロックチェーンをSNSのようなものだと考えているんです。これまでは大企業がコントロールするサーバーにすべてのデータが保管されていましたが、ブロックチェーンでは世界中のパソコンがデータを記録し合い、非中央集権的な大きなサーバーインフラとなるため、人と人とをつなげ、共感を生む可能性があると思っています。
石原
たとえば、同じ神様を信じていることで他者と協力できるようになったり、集落やコミュニティとして成立したりしているのは、神様という「虚構」を仲介することで他者を信用できるからであって、信用できる仲介者の存在は、本質的に人間の関係において大事なんじゃないかなと思います。
ブロックチェーンの登場は、こうした新しい「虚構」の仲介者が生み出されたということなんじゃないかなという気がするんです。ブロックチェーンを介して新しいつながりが生まれるというより、ブロックチェーンというコンセプトの物語を、みんなが信じているというか。僕はブロックチェーンを神様だと言っているわけではないのですが(笑)、神様を信じるために神話や聖書などの物語が必要だったように、Senspaceさんはブロックチェーンのための物語をつくろうとしているんじゃないかなと、勝手に思っていたりします。
新しいムーヴメントと行動様式を創出するゲームの可能性
石原
今回のワークショップ体験のように、気づいたらブロックチェーンのコミュニティやDAOに参加していたようなことが今後起こるかもしれないですよね。意識しないほどブロックチェーンの敷居が下がり、技術へのハードルのないなめらかな社会になった時にどのようなことが起こるのかは、想像しがいのあるテーマだと思います。
廉
実世界で会う人と、ブロックチェーンで認証されている人、そのどちらの方が信頼できるのかという問題もあると思うんです。もしかしたら、ブロックチェーンによって、システム上で信頼されている人の方が共感しやすく、なにかを一緒にしやすい世界になるかもしれないですよね。知らない人とでも共感し合うことができる世界を僕は素敵だなと思うので、人と人とのつながりをより深く、安全に感じられる世界を追求したいと思っています。
石原
いいですね。新しい信用、新しいつながりは、新しい行動様式が生まれるきっかけになると思います。例えばUberやAirbnbなどのサービスは、20年前だったらきっとありえなかったはずですよね。知らない人の車に乗り、知らない人の家に泊まることが当たり前になったのは、相互レビューという新しい信用ができたからであり、それまでつながりのなかった人同士の協力関係が生まれるようになりました。そういった新しい行動様式が、世界にどのようなインパクトをもたらすのかという問いを、今後Sespaceさんが開拓していくんじゃないかなと思っています。
山田
今日のワークショップを体験型ゲームにして本当に良かったな思います。プロジェクトやテクノロジーをただ紹介するのではなく、体感的に感じていただくゲームにしたことで、参加された個々人の体験としてナラティブに広がっていく可能性を実感しました。
また、フィジカルな現場でグルーヴ感が生まれる体験もやっぱり良いなと感じたので、SNEEZEでも、デジタルでつながった人同士がフィジカルでも会うことで、新しいなにかがはじまる仕組みをつくらないといけないなと気づくことができました。今回のイベントのように、オルタナティブコードシリーズではリリースして終わりではなく、いろんな人たちと関わりながらムーブメントをアップデートし続けることができる環境や機会をつくっていきたいと思います。
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ワークショップの余韻とともに、イベント終了後のミートアップにおいても参加者同士の盛り上がりが感じられた本イベント。SNEEZEの世界観を多くの方に伝える機会であると同時に、Senspaceのクリエイティブが掛け合わさることで、プロジェクトのさらなる広がりが感じられるイベントにできたのではないかと感じます。MVMNTが目指す「20XX年の伝説の創造」には、プロジェクトが語り継がれるための「伝え手」の存在が必要不可欠です。今後もアーティスト・クリエイターと共にわたしたちが提示する価値・世界観を体験いただけるイベントやワークショップを企画することで、未来の「伝え手」となる参加者の方々を巻き込んだムーヴメントの創出に取り組んでいきます。
執筆・編集:堀合 俊博