パルコによる創造性人材の育成 文化的ムーブメントにつながる、サービス開発能力を引き出す パルコによる創造性人材の育成 文化的ムーブメントにつながる、サービス開発能力を引き出す

本記事は、MVMNT運営元 Loftworkの公式ウェブサイトより転載しています。
元の記事URL: https://loftwork.com/jp/project/parco_hr_development

Outline

ショッピングセンター「PARCO」を日本各地に展開する株式会社パルコ(以下、パルコ)は、ショッピングセンター運営事業・エンターテイメント事業に加え、他社とのコラボレーションビジネスをはじめとする多彩な新規事業にも挑戦するなど、事業の幅を広げています。

2014年より、コーポレートメッセージに「SPECIAL IN YOU.(君も、特別)」を掲げるパルコは、全国に数多く存在する百貨店・商業施設の中でも、各事業を通じて、ファッション・音楽・アート・演劇など、さまざまなカルチャーを取りあげながら、その最前線で活躍する若き才能の発掘・支援を行っています。同社の人事・総務部は、これからのパルコに求められる人材として、カルチャートレンドと接続した「パルコらしさ」を踏襲しつつ、社員一人ひとりの個性やユニークな着想を活かしたサービスや店舗企画を生み出せるような、創造性の高い人材の育成を目指しています。

今回、パルコは若手社員を対象に、自身の価値観・興味関心を活かしつつ、ユーザーの心を動かすような独創性の高い企画・サービスのプロデュース能力向上を目的とした、人材育成プログラム「MEME/ZINE」を実施。ロフトワークは、本プログラムの企画から、ツール開発、実施運営をサポートしました。

本プログラムには、パルコ社内で事業開発に関わるメンバーから店舗営業として働くメンバーまで、分野にとらわれない多様な立場の社員が参加しました。興味関心の領域が近い社員同士で3人1組の「倶楽部」を結成し、その活動を通じて起こしたい変化を妄想。そこから逆算的に導いたアイデアをもとに、DIYメディア「ZINE」の企画・制作を行いました。このように、個人の「夢中になるモノ・コト」を起点に、少人数でZINEを企画したり、周囲へプレゼンしたりするプロセスを通じて、個性を生かした独創的な企画・サービスを自律的に生み出せる能力を育むことを目指しました。

執筆・編集:後閑裕太朗/Loftwork.com編集部
編集:岩崎諒子/Loftwork.com編集部

CLIENT株式会社パルコ
MEMBERプロジェクトマネージャー:原 亮介
ディレクター:堤 大樹、室 諭志
プロデューサー:中圓尾 岳大、桂 将太郎、金 徳済(以上、株式会社ロフトワーク)
ZINEフォーマットデザイン:半澤 智朗(グラフィックデザイナー)
ゲストトーク:ミネシンゴ(編集者, ライター, 合同会社アタシ社 代表社員)
※肩書きはプロジェクト実施当時

「ZINE」とは

「個人や少人数の有志が、非営利で発行する自主的な出版物」(引用:wikipedia)のこと。見た目としては、一般的な雑誌(magazine)と同じく冊子状のものが多いが、ポスターや新聞のようなものもあり、形式に決まりはない。最大の特徴は、制作から販売に渡って商業出版の外側にあること。自主的な動機から制作され、作者自身が配布・販売までを担うことが多い。また文化として、DIY(Do It Yourself)の精神や、ファンダム、同人文化などと強く接続してきた側面があり、コミュニケーションツールとしての役割や個人の価値観や偏愛に沿った内容であることが特徴。

参考:『野中モモの「ZINE」 小さな私のメディアを作る』(野中モモ, 2020,  晶文社)

Process

本プログラムでは、「個人の『夢中』を『文化の遺伝子(MEME:ミーム)』に育てる研修プログラム」というテーマのもと、オンラインホワイトボード「miro」を用いて、計2日間のオンラインワークショップを行いました。

研修プログラムの流れ。2回のワークショップの中でチームアップから活動継続の土壌づくりまでに及ぶ取り組みを実施。DAY1とDAY2の間の一ヶ月間で、参加者はZINEを制作した。

本プログラムでは、「個人の価値観と企画・プロデュース能力を結び付ける」という目的達成に向け、設計において以下3点を工夫しました。

「伝説の歴史を描く」=バックキャスティングで発想を広げ、アイデアに導く

参加者が3人1組でチームを作り、架空の「伝説の倶楽部」としてチームを結成。「伝説になるまでの活動の歴史を描く」という設定のもと、自分達が生み出しうる「変化」を、将来実現したいことから遡るように言語化していきました。一見、突飛に思えるようなワークショッププロセスですが、未来ビジョンとバックキャスティングの手法を踏襲しており、「伝説の倶楽部」という設定のもとで発想を飛躍させながら、カルチャーを巻き込んだ大きな変化を見据えつつ、今必要なアイデアまで遡ることで具体的なアクションのアイデアを引き出すことをねらいとしています。

「ZINEの制作」=個人の夢中を企画へ落とし、表現・共有する能力を伸ばす

バックキャスティングで導いたアイデアをもとに、「伝説の倶楽部」の活動の第一歩としてZINEを作成。社員自らコンテンツ編集やデザインを行い、紙面に表現することで編集的思考や創造性を鍛えることを目指しました。また、ワークショップの2日目には、制作したZINEのポイントを整理し、他チームへプレゼンテーション。ZINEを「コミュニケーションツール」として活用することで、更なるアイデアの発散や交流を生み出しました。

「ハードルの可視化」=“次の活動”を生み出すモチベーションとヒントを与える

プログラムの最後に、「伝説の倶楽部」の活動を続けていくうえで、現実的に起こりうるハードルと、その乗り越え方についてディスカッション。プログラム期間を終えても、倶楽部を通じて部署を越えた活動を続け、実際のサービスや店頭企画にまでつなげていくためのきっかけを提供しました。

Output

プログラムを通して制作されたZINE

(画像は制作物のイメージです。制作:Tomoro Hanzawa)

コラボレーションインターフェースデザインツール「Figma」を用いて、データ上で10ページのZINEを作成。運営側が用意したデザインフォーマットを土台に、プログラムに参加した12チームそれぞれが、自らコンテンツ編集・デザインを行いました。

Approach

「パブリック・ナラティブ(SELF US NOW)」理論に則り、個人の物語から、他者を動かすまでのプロセスを体験

今回の人材育成プログラムのポイントとなったのは、目に見えるトレンドやニーズに捉われることなく、「自分自身の価値観・興味関心を起点にする」というマインドを醸成すること。そのうえで、仲間やユーザーを巻き込む企画へと発展させるプロデューススキルを育成することでした。

この目的の達成のために、プログラムの背景理論としたのが、ハーバード大学 マーシャル・ガンツ博士が提唱した「パブリック・ナラティブ」です。これは「他者の巻き込み方」に関する方法論であり、活動の背景や小さな物語を、まず自分自身が語りはじめ(SELF)、仲間や周囲と価値観を共有しながら(US)、いま行動する理由(NOW)に落とし込んでいくことで、共感を軸にして個人の熱狂を集団のムーブメントへと転換していく、というもの。

プログラムの流れは、この理論のプロセスを踏襲する形で、以下のように設計されています。

SELF→US→NOWに沿ったプログラムの流れ

  • 個人の「夢中」を書き出し、その理由を対話を通して深堀り。なぜ、自分が夢中になるのか、なぜその価値観が大事なのかを言語化し、起点となる「夢中」の動機をより明確なものとする(SELF)
  • 自分と近い領域の「夢中」を持つメンバーとチームを組み、自分一人から「自分たちの夢中」として、さらに議論と妄想を広げる(US)
  • 未来と今を往復しながら企画や表現に落とし込みつつ、「今できる」具体のアクションを導く(NOW)

デザイナーと連携して、的確なツールやZINEのフォーマットを提供

多様な立場やバックグラウンドを持つメンバーが、オンラインワーク・ZINE制作を共同で行ううえで、プログラムをスムーズに進めるために、ツールの選定や作業環境の整備が求められました。

ワークショップの進行用のツールとしては、全体の流れを可視化した上で、共同での作業が進めやすく操作も直感的な「miro」を採用し、またZINEの制作ツールとして、デザインの経験がない社員でも比較的容易にレイアウトが可能な「Figma」を使用しています。さらに、ツールの使い方に関しては、ワークショップ内で十分な時間を確保してインプットを行いました。

半澤 智朗氏が制作した、ZINEのフォーマットデザイン。グラフィックやテキストレイアウトなど、幅広いサンプルパーツを用意し、ZINE制作をサポート。

また、ZINEの制作にあたっては、グラフィックデザイナー 半澤 智朗氏による冊子のフォーマットデザインを提供。ページを構成・デザインするための補助ツールとしての「テンプレート」や「デザインパーツ」も用意し、テキストや画像、デザインパーツを配置するだけで、デザイン初心者でも簡単にZINEのページが完成できるようサポートしました。こうして、多様な立場から参加した社員の全員が、ZINEを通して自分たちの世界観やメッセージを表現することができました。

デザインパートナー

半澤 智朗
東北芸術工科大学グラフィックデザイン学科卒。グラフィックデザイナーとしての活動に加え、実写・3DCGを併用した映像制作や、XR技術を用いた作品制作、エクストリームインプロヴィゼーション団体、“跡地“と幅広く活動している。

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