本記事は、MVMNT運営元 Loftworkの公式ウェブサイトより転載しています。
元の記事URL: https://loftwork.com/jp/project/newview-school
XR表現を探求する、次世代アーティストを育成する
新しい空間表現の場を提供するXRクリエイティブプラットフォーム「STYLY」を開発・提供する、株式会社Psychic VR Labは、2018年より、株式会社パルコ、ロフトワークと共に、XRにおけるクリエイティブ表現と体験のデザインを開拓・拡張していく、世界同時多発的な実験的プロジェクト/コミュニティ「NEWVIEW」を共同運営しています。
NEWVIEWは新たなアーティストの発掘とコミュニティの拡大を目指し、2019年より、スクール事業「NEWVIEW SCHOOL」の運営を開始。技術のハンズオンに留まらず、幅広い先端表現とXRの融合を図りながら、新しい三次元表現を生み出す野心的なアーティストを育成しています。これまでの実績として、日本国内をはじめ、台湾(台北)、イギリス(ロンドン)、アメリカ(ニューヨーク)、カナダ(トロント)と、世界に向けてその活動を広げてきました。
本記事では、NEWVIEW SCHOOL立ち上げ・運営を手掛けてきたPsychic VR Lab クリエイティブディレクター Yoshさん、プロデューサー 浅見和彦さんと、ロフトワークのクリエイティブディレクター 林剛弘、岩倉慧による座談会を実施。2019年からの3年間の軌跡をたどりながら、スクールのユニークな側面や卒業生たちの活躍にフォーカス。さらに、2022年の新たな挑戦について紹介します。
聞き手:森 実南(以下、loftwork.com編集部)
執筆・編集:岩崎 諒子
編集:後閑 裕太朗
話した人
浅見 和彦
株式会社Psychic VR Lab
プロデューサー
yosh
株式会社Psychic VR Lab
クリエイティブディレクター
岩倉 慧
株式会社ロフトワーク
バイスFabCafe Tokyoマネージャー
Profile
林 剛弘
株式会社ロフトワーク
クリエイティブディレクター
新時代の「三次元表現」を開拓するアーティストらを発掘する
——NEWVIEW SCHOOLが開設された経緯を教えてください。
浅見 まず、そもそもNEWVIEWというプロジェクトがなぜ始まったのか、という話から。プロジェクトが始動した2018年当時、一部の広告表現を除いて、VR/AR表現のほとんどがゲームやエンタメでした。僕らとしては、VR/ARは特定の領域に閉じたものではなく、ファッションや音楽、アートといった領域の人たちにも開かれていくべきだと考えていました。
XR業界はまだ黎明期で、これから新しい表現者がどんどん出てくるはず。僕たち自身がそういう人たちをフックアップして、新しい時代のクリエイターを発掘していかなければ、という想いがありました。
林 2018年に、XRを使った三次元表現をより本質として捉えた作品を発掘する取り組みとして「NEWVIEW AWARDS」が始まりました。ただ、当時はまだ三次元表現という領域で活躍するプレイヤーは少なく、また作り手が独力でクオリティの高いXR作品をつくれる環境が十分に整っていなかったんです。
そこで、NEWVIEWとして能動的に新しいアーティストを育成・輩出する場所をつくろうとなり、プロジェクト開始2年目にNEWVIEW SCHOOLが始まりました。立ち上げ当時は、数年後に各領域で活躍しているXRアーティストの肩書きに「NEWVIEW SCHOOL卒業X期生」と書いてある状況になったらいいな、ということを思い描いていました。
多彩な講師陣から、総合芸術としてのXRを学ぶ
——NEWVIEW SCHOOLのコンセプト「XRを総合芸術として学ぶアートスクール」の意図を教えてください。
林 このコンセプトは、技術だけを学ぶ講座や学校に対するカウンターです。XRで表現することを目的化するのではなく、そもそも「XRであることの本質的な理由」から考える表現者を育成する、という意図が込められています。
もちろん、STYLYやUnityの使い方といったテクニカルな学びの要素もありますが、それだけではなく、表現の基礎を学べるようにカリキュラムを設計しています。
岩倉 NEWVIEW SCHOOLでは、演出の視点や物語・メッセージを構築する方法なども学びます。そのため、XRの専門家の方々に限らず、さまざまな領域の方々に講師として参加してもらっているんです。
Yosh これまで、アーティストの谷口暁彦さんや、コグニティブ・デザイナーの菅俊一さん、編集者の伊藤ガビンさんといった方々に講師をお願いしました。谷口さんは、以前よりXRの作品を制作されているし、菅さんはコグニティブデザイナー知覚の観点からデザインを研究しています。ゲームプロデュースの実績を持つ編集者のガビンさん、放送作家の倉本美津留さんなど、本当に第一線で活躍されている多彩な方々に参画いただいてますね。
岩倉 昨年は、脚本家・映画監督の中村佑子さんに講義をしてもらいました。中村さんは去年、シアターコモンズで上演していた『サスペンデッド』という作品でARを取り入れていました。普段全く異なるメディアで表現をしている人がツールとして初めてARを使うときに、従来の手法ではできないどんなことを表現したかったのか。中村さんのような、XRは専門外というアーティストからも講義を受けられることは、NEWVIEW SCHOOLの魅力の一つだと思います。
授業はリアルからオンラインへ。グルーヴを共有できる仲間とつながる
——3年間のスクール運営で印象的だったことを教えてください。
林 初年度の2019年は東京と京都の2拠点で、オフラインとオンラインの両方を駆使しながら講義を行いました。今であれば普通のことですが、その時はZoomを使った講義にも不慣れな中で、2つの場所をリアルタイムで繋ぎながらいかに受講生たちに「一緒に学んでいる感」を感じてもらえるか試行錯誤しました。
2020年からはコロナ禍に対応するために、全講義をオンラインに移行しました。場所に縛られなくなった分、全国からXRに挑戦したい人が集まったのは良かったと思います。ただ、別の問題もありました。オンラインの場合、講義とゼミだけではなかなかオフラインの時のような熱量やグルーヴ感が生まれなかったんです。
岩倉 リアルと違って、オンラインでは場外のコミュニケーションがなかなか生まれません。とはいえ、例えばDiscordのようなオンラインチャットツールを導入して「いつでも話していいですよ」と呼びかけてみたところで、「40人の知らない人」に向けて話しかけるのは抵抗感がありますよね。
そこで、10人ならちょうどいいのではないかと、10人ずつで4つのクラスに分けて授業をしました。クラスの名前を自分たちで決めるなどしながら、徐々にグルーヴ感が高まったと思います。
——3年目にして、オンラインスクールの運営が洗練されてきたのですね。コロナの中でも、グルーヴを共有できる仲間ができることは、スクール生にとっても嬉しい体験だと思います。
3年間の活動から生まれた価値と、2022年のチャレンジ
——これまでスクールを運営してきて、よかったことや成果だと思うことがあれば、教えてください。
Yosh 一番わかりやすい成果は、卒業してからも生業としてXRを活動の中心に据える人たちが生まれてきていることです。JACKSON kakiさんとか、Ryo Takegawaさんとか。他にも、そういう人たちの活躍が目立ってきましたよね。
浅見 僕たち自身、卒業生と仕事をする機会が増えています。この間は、Ryo Takegawaさんが、大丸松坂屋が運営しているアートメディア「ARToVILLA」の武田双雲さんのVR作品の制作に参加してくれて。NEWVIEW SCHOOLを起点に新しいエコシステムが生まれつつあります。これからも卒業生が、世の中でどんどん活躍していくだろうなと思います。
——立ち上げ当初に描いていた未来が、今まさに現実になりつつあるんですね。
Yosh それと、STYLYの開発に関わる身としては、スクール生たちの作品を見ていると気づきがたくさんあるのがありがたいですね。スクール生にはSTYLYのヘビーユーザーもたくさんいて、「アーティストはこういう使い方をしたいのか」「こういう表現のやり方もあるんだ」と。
NEWVIEW SCHOOLはアーティスト育成のための場所ですが、同時に僕たち開発者にとってはアーティストと濃密に交流しながら貴重なインプットを得られる場所でもあるんです。
——2022年のNEWVIEW SCHOOLで、新しくチャレンジすることがあれば教えてください。
岩倉 今年は新しい挑戦として、スクールで実践されているVR/ARの新しい表現実験やアプローチを、コンテンツとしてオープンに発信していきます。
というのも、NEWVIEW SCHOOLでは、講師の方々が実験的でユニークな課題を出してくれるんですね。例えば、一昨年は伊藤ガビンさんが「ヘッドマウントディスプレイを使わずにVR作品を作ってください」という課題を出してくれました。これは「VR=ヘッドマウントディスプレイ」という既存の枠組みを取り払って、VR体験を捉え直すような問いです。こうしたNEWVIEW SCHOOLらしいユニークな問いかけは、オープンな議論を通してより可能性が広がるものだと思います。
Yosh 毎年、NEWVIEW SCHOOLにたくさんの応募をいただきますが、残念ながら受講できる枠は限られています。これらの活動をオープンにすることで、スクールを受講したいが叶わなかった、あるいは次は受講したいと思う人にウォッチしてもらいながら、「自分もNEWVIEWコミュニティの一員だ」と感じてもらえたらいいなと思っています。
世界にスクールの“熱”を伝播する
——2020年、初めての海外展開としてNEWVIEW SCHOOL台湾が開校しました。それから、2021年は日本、台湾に加えてロンドンと、ニューヨーク・パーソンズ大学と4拠点に広がりました。今年は国内に加えてロンドンやトロントでの開校が現時点で決定していますが、これからも世界の都市でNEWVIEW SCHOOLが広がっていくのでしょうか?
浅見 そうですね。今は、Psychic VR Labのグローバルチームが世界の各都市でリサーチを進めながら、NEWVIEW SCHOOLの海外展開を戦略的に進めています。
そもそも、NEWVIEWはグローバルなプロジェクトとして立ち上がったので、ちゃんと世界に届けていきたい。新しい都市でNEWVIEWのコミュニティを広げていこうとした時に、最初のステップとして「学校」を作るのは、現地にいる作り手の「学びたい」という意欲に応えられるし、お互いにとって良い形になるんじゃないかと思います。
岩倉 NEWVIEWがここまで海外で受け入れられてきたのは、STYLYというツールだから、という側面が大きいのかなと感じます。
例えば、「XR表現でつくりたいものがあるが、プログラミングを習得するまでに2年かかってしまう」となった場合、アーティストはつくりたい想いと技術習得との間にあるタイムギャップにもどかしさを感じてしまいます。NEWVIEW SCHOOL NewYorkを主催しているパーソンズ大学のKyleが、まさに指導者という立場から学生たちのそのようなジレンマを受け止めていた人なので、STYLYとNEWVIEWの活動にすごく共感してくれたんです。
——XRで表現したいアーティストが世界中にいるのであれば、まだまだNEWVIEW SCHOOLがアプローチできる場所がありそうですね。
多様な視点と寛容さを育むリベラルアーツとして
——最後に、YoshさんからNEWVIEW SCHOOLを受講したいと考えているみなさんに向けて、メッセージをお願いします。
Yosh NEWVIEW SCHOOLは総合芸術の学校ですが、僕は、アーティストが一つの道具としてエンジニアリングの視点を持つことで、世界の見え方が変わってくるのではないかと考えています。去年、宇川直宏さんがアワードのテーマに掲げた「ポストリアリティとノーノーマル」の考えにも繋がりますが、NEWVIEW SCHOOLで学びながら作品を制作することで、自分がこれまで見てきた現実よりもっと広がりのある世界が見えてくるはず。
今、世の中が分断に向かいつつある中で、アーティストにとって多様な視点を得ることは、ますます重要です。私は私、あなたはあなたではなく「そういう見方や考え方もあるよね」というある種の寛容さが必要で、XRがそのようなクリエイティブを育むリベラルアーツになっていくのではないか、という期待があります。NEWVIEW SCHOOLをきっかけに、みなさんの中でそのような創造力が花開いたらいいなと、強く願っています。
——まさに、総合芸術だからこそのXRの可能性を感じさせる言葉です。NEWVIEW SCHOOLの卒業生たちの作品を通じて、世界に多様性に対する寛容な空気が広がっていくといいですね。今日はありがとうございました。
Voice
XRを通じたP2Pな学びを世界に届ける。台湾から見たNEWVIEW SCHOOLの可能性
FabCafe Taipei / Loftwork Taiwan co-founder Tim Wong
NEWVIEW SCHOOL台湾をスタートさせた2020年、台湾ではまだXRのクリエイティブ表現は黎明期で、おもにゲームカルチャーとの結びつきが強いものでした。
当時僕は、XRの中でも特にARに可能性を感じていました。物理的な「場所」と「デジタルデータ」を結びつけることで全く新しいコミュニケーションを生み出せるんじゃないかと考えていたし、ARのような新しいテクノロジーをクリエイティブに活用することが、僕たちが取り組んでいる共創の可能性を広げていくはずだと信じていたからです。
日本と台湾では場所も文化も違いますが、クリエイターが常に斬新なアウトプットを模索している点は同じです。彼らは、どうすればARやVRを使いながら新しい商業展示を作れるのかに関心があり、その点でNEWVIEW SCHOOLは彼らにとって魅力的な場所だったのではないかと思います。
FabCafe Taipei/Loftwork台湾は、今後さらにメタバースの可能性に挑戦していこうと思っています。XRは新たな体験はもちろん、次の時代の「当たり前」を創りうる可能性を持っているからです。
また、コロナ禍によってオンライン授業が広がっていく中で、学びや教育の形はトップダウン的なものになりつつあります。その反動として、「シェアできること」や「P2Pで教え合うこと」の必要性はより高まっていくでしょう。NEWVIEW SCHOOLの価値は、国を超えてそのような学びを活性化させる可能性を秘めていることだと思います。
2022年のNEWVIEW SCHOOL台湾では、私たちがこれまで得た学びやノウハウを、他の拠点のNEWVIEW SCHOOLとシェアできるようチャレンジしていきたいです。